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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)1322号 判決

控訴人 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 倉田雅充

三宅秀明

藤本勝哉

被控訴人 乙村月子

右訴訟代理人弁護士 吉野正紘

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

証拠関係≪省略≫

理由

被控訴人が昭和三三年八月一一日乙村太郎と婚姻し同人と夫婦となったものであること、控訴人が高校卒業後○○銀行○○支店に勤務し、その後結婚して上京したが間もなく離婚し、○○醤油株式会社に勤務していたところ、昭和四五年一月ごろ、父の知人である防衛庁勤務の丙山一郎から紹介を受け、同年三月ころ右乙村太郎と会い、同年五月二一日ころ同人の経営する株式会社○○社に勤務するようになり、乙村に妻として被控訴人がいることを知ったことは、原判決理由の説示するとおりに認めることができるから、右理由を引用する。

被控訴人は、同人の夫太郎と控訴人が昭和四五年一月ころから情交関係をもつにいたりよって被控訴人と右太郎との夫婦関係を破かいした旨主張するので、按ずるに

≪証拠省略≫によると、○○調査事務所は吉野弁護士を通じて被控訴人から太郎との離婚事件に関して同人の行動調査の依頼をうけ、同事務所の調査員A、B、Cら三名が尾行調査の結果、甲第二、三号証の調査報告書が作成されたというのであるが、これら報告書にはあたかも控訴人が昭和四五年七月四日ごろ神奈川○○温泉において、また同年一一月一三日ごろ控訴人居住の○○区○○○の○○○○ビル三階一号室において、それぞれ乙村太郎と情交したのではないかと推察させる如き記載がある。しかしこれらの事実は原審における証人乙村太郎、原審および当審における控訴人本人の強く否定するところであるのみならず、甲第二号証の報告書に添付されている写真は、正面からのものでもなく、接写ないし望遠レンズによるものでもなく、その女性は≪証拠省略≫に照らし控訴人であることは確認できないし、同報告書中控訴人と太郎の両名は、昭和四五年七月四日(土)午后六時五〇分小田急線新宿駅から小田原行急行電車に乗車し、同七時四〇分○○温泉で下車した旨の記載があり、その所要時間は五〇分となるが、右所要時間をもってしては到底新宿から○○まで到達しえないことは公知の事実に属するから、この点に徴しても右報告書記載の内容は採用し難い。

また、甲第三号証の報告書添付図面の調査員張込地点というのは、前顕A証人の証言によれば控訴人が居住する○○○○ビルから約一五〇ないし一八〇米位離れた地点であり、かつ望遠鏡をも使用せず右報告書記載のごとき男女の姿態が確認できたというのであるが、≪証拠省略≫によれば右張込地点と○○○○ビルとの間には他の建物が介在し、その視線の位置からビルの窓越しに室内の状況を見ることは不可能と認められることに照らし、到底右記載内容および前顕A証人の証言は措信できないものというべきである。

このように甲第二、三号証の各報告書および証人の各証言は採用に値しないものである以上、これによって控訴人と被控訴人の夫太郎との情交関係の存在はこれを認定するに由なく、原審における被控訴人の供述は前記各報告書に基くものか、あるいはたんなる同人の憶測の域を出るものではないからこれも採用できない。その他にこれを認めるべき的確な証拠はない。

したがって控訴人と乙村太郎との間に情交関係があることを前提とする被控訴人の本訴請求は失当として棄却を免れない。しかるにこれと異なり被控訴人の請求を認容した原判決は相当でないからこれを取消すべく、本件控訴は理由がある。

よって民訴法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 浅沼武 判事 加藤宏 高木積夫)

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